スイートペットライフ
11.  お泊りの夜
40分ほど車を走らせてたどり着いたのは、雑誌やテレビでも取り上げられている有名老舗旅館だった。

「え?ここって、まさか泊るんですか!?」

驚いて目をこれでもかと見開いて尋ねる私に「んーそーだよ」と言いながら車から降りて伸びをする大倉さん。

「泊りって私何も準備してないし」

そう言いながら、急いで車から降りて、大倉さんに近寄る。

「着替えならここに」

トランクをあけて自慢気に言う顔が何だかむかついた。

「でも――」

「大丈夫、ミィのサイズはすべて頭にインプットされているから、ちゃんと準備したよ。今日はセクシーな…●□※▼□…がほっ」

「もうそれ以上言わないでいいです!」

私は大倉さんの口を両手で押さえた。

「泊る場所が部屋から旅館に代わるだけでしょ?」

そう言って、荷物を持って私の手を引きにっこりと笑う。

部屋に一緒に帰るのと、旅館に一緒に泊るのとでは大きく違う気がする。

これって大丈夫なのーー!?

半ば強引に引きずられながら、旅館の門をくぐった。

「これはこれは、大倉様お待ちしておりました」

人の良さそうな女将さんらしき人が出迎えてくれる。

「では、早速離れにご案内いたしますね」

笑顔の女将さんの後に続いて大倉さんと歩く。

離れへの道は閑静な竹林の中にあり、脇には綺麗な水が流れる小川もあった。

いつもならうるさいとしか感じない蝉の鳴き声も、ここで聞くと“蝉しぐれ”になるから不思議だな。
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