無垢・Age17
 期末試験は何とか上手く収まった。
二学期より成績は俄然上がったのだ。

それでもアイツは、返された答案用紙を見て納得していないようだった。


(ごめんなさい。不出来な女房で)
私は何を言ったらいいのか解らずに戸惑っていた。


「ここ凄い難しいな。こんな問題良く解けたな」

でもアイツはそう言って、頭を撫でた。

アイツったら、私をからかったのだ。


「ん、もう意地悪……ん、んんん」


「はい、ご褒美」

拗ねてみせた私の尖った唇の上に、唇を重ねて悪戯っぽく笑う。

へなへなとなる体を抱き締め、もっと深いキスへ誘う。


何度も何度も角度を変えて唇を戻す。
息が吸い込まれそうになり、又パニック障害を起こすような勢いだった。


(幸せ……)
私は全てをアイツに委ねていた。
甘い甘いチョコレートよりも、更に甘くとろけていく心。


こんな生活が出来ることなど、想像さえしていなかった。
私は幸せの絶頂にいた。




 そして……
女の子にとっては、待ちに待ったバレンタインデーが近付いていた。


私はアイツに知られないように、密かに手作りチョコの材料を揃えていた。


(トリュフにフランポワーズの生チョコとガトーショコラか?)

新聞屋さんに戴いた料理の小雑誌を見ながら微笑む。
でも結局どれか一つに決められず、全部作ることにした。


とは言っても、オーブンを使用するガトーショコラだけは家では作れない。

そこで、最後の調理実習にこれを教えてくれと提案してみた。


「あれっ、誰か好きな人でも出来たかな?」
家庭科の先生は笑いながら言った。
私は慌てて首を振った。




 それをみんなも希望してくれた。
これから社会に旅立つ女子高生の必須アイテムになるからだった。


「でもその前に、本当のバレンタインデーの意味を調べて来てね。きっとみんな驚くわよ」

先生はそう言いながら、黒板の文字を消した。


「あ、そうそう。ガトーショコラって焼き時間あるのよ。その間に違うチョコ行っちゃう?」


「わぁ嬉しい!! これでバレないで済む!!」
思わず私は言っちゃった。


(ヤバい……)
たじたじになった私に、クラスメートが疑いの視線を向けた。




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