センセイ
あたしは思わず、ホッと息をついた。



今まで授業なんて楽しかったためしがないから、チャイムの音は好きじゃなかったけど、こんなにいいタイミングで鳴ってくれるならこれからは好きになれるかもしれない。



それでもあたしの机から動こうとしない由里に、あたしはこう言った。



「次の授業、川瀬じゃないの」



効果てき面。由里は渋々、前に向き直って机の中からごそごそと数学の教科書を出しはじめた。



やがてチャイムから少し遅れて教室に入ってきた川瀬は、体育館で見たときとおなじニコニコした顔で教壇についた。


すぐに聞こえてきた日直の「起立」の声に、あたしは嫌々立ち上がる。




あの嘘くさい笑顔がきらい。




自分でもカッコイイと思ってるのか、ちょっと着くずしたスーツがきらい。





ほとんど睨むように川瀬を見てきらいな部分を数えていると、一瞬、目が合ってしまった。




あたしはすぐさま、目を逸らして着席した。



タイミング的にほかの子たちよりもはやく席についてしまったけど、そんなことは少しも気にならない。


不自然に見えようがなんだろうが、川瀬になんてどう思われていてもべつにいい。





あたしの態度に、川瀬は困ったように眉を寄せた気がしたけど、そんなものは見なかったフリをするに決まってる。






こうしてあたしの高2生活は、最悪な幕開けからはじまった。


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