かっこ仮。の世界。
「……もしかして、嫁き遅れ?」
とっても、とーーっても言い難くそうに、小さくぼそりと呟いた清明。
「誰が嫁き遅れだーーーーっ!」
「うみょっ⁉」
透理は自分の横に転がっていた何かを、はしっと掴んで、清明の顔面に投げ付けた。
なんか鳴き声がした気がしたけど、気にしないことにする。
けれど、その投げたモノが清明の顔面に辿りつく前に、それはぽん!と音を立てて床に落ちた。
「ちょっと。いくら護狐が形代だからって乱暴に扱わないで欲しいな。術を解かない限り死にはしないけど怪我はするんだから」
その護狐に向ける愛情をこっちに向けて欲しいんですけど。
清明はぴぎゃーと泣きつく護狐をよしよし、と宥めていた。
「それで?未婚かどうかがなんの関係があるのよ?」
気を取り直そう。
ここで怒っていてもなんの解決にもならないわけで。まずは現状把握が大事だ。
透理はぐつぐつと煮え立つ胸の裡を抑えて、清明に訊ねた。
「結婚してる女性を屋敷に住まわせるわけにはいかないから。人間は低俗な噂話が大好きな生き物だからね」
……至極、ごもっともです。