かっこ仮。の世界。
平安の朝は早い。
そして面倒くさい。
まず着物。それ自体着付けが面倒なのに、裳と呼ばれるそれがとにかく動きにくい。
そして、食事。
「なんで炊飯器も電子レンジもないのよ…」
竈で御飯を炊くとかね…ハイテク機器に慣れた現代人に、そんな知識があるわけがない。
「あ、こら!寝るでない!御釜が吹いてるではないか!ちゃんと見なさい」
「はいはい…」
玉ちゃんの鋭い声に、うとうとしていた意識が引き戻される。
こっちに来て一週間。
慣れないとこばかりで、さすがに疲れが出てきた気がする。
いつになったら帰れるんだろう…。
朝餉が終われば、透理にはすることがない。
本を読みたくても、透理にはこの時代の書物を読むためにも必要な知識がない。
清明の持っている本はいわゆる古文にあたるもので。
辞書片手に現代語訳付きしか読んでこなかった透理にはさっぱりで。
そもそも字が読めない。
漢文は無理でもかな文字なら…と思って借りてみた本は、まるでミミズが手繰ったようで。
達筆すぎるのも問題じゃないか、と本気で思った。