かっこ仮。の世界。
「寝ながら笑うとは、なかなか器用な特技を持った娘だな」
どこか呆れた声と共に、被っていた布地をばっさり取り払われた。
なにするのよー。
私まだ眠いんだけどー。
安眠妨害はんたーい。
「いい加減に起きないか。もう日が中天にあるんだぞ?」
中天なんて知らん!
そう透理がぼやこうとした瞬間だった。
「何するのよっ!」
上半身を水浸しにされて、透理はガバリと身を起こした。
にこにこ。
目の前にある見覚えのある顔に、透理の理性は直感的に告げた。
起きないと殺されるーーー
透理は自分の直感を疑わない。
「オハヨウゴザイマス…」
ずぶ濡れの状況で、このひと言が言えた自分を褒めたい。
「うん。おはよう」
人を水浸しにしておいて、その原因たる男はにっこりと挨拶を返していて。
「もっとマシな起こし方があるでしょーーーっ‼」
寝起き一発、怒鳴り散らした透理は自身の声に頭を押さえることになる。
透理は自他共に認める、超低血圧だった。