ロング・ディスタンス
青春
「太一君は絶対に一番になるからね。あなたは総合格闘家になれるって、私信じてるから」
 昔々、恋人の百合花が言った。長濱太一が大学を卒業しようとしている時のことだ。

 太一は東京にある私立大学の理工学部に入学したが、勉強そっちのけで格闘技に打ち込んでいた。その大学は同好会も含めると、おそらく日本で一番多くのクラブを擁しており、太一のやりたかった総合格闘技の部も存在していた。「マイルストーン(道標)」と呼ばれる学内専用のクラブ案内誌を読んで、彼は部室の門をたたいた。
 太一は子どもの頃から空手を続けていて、黒帯も取得している。彼はやがてクラブ活動だけに飽き足らず、プロの格闘家を擁する総合格闘技のジムに入門することになった。ジムの会長はその道の第一人者で、その独特の風貌から「ゴリサン」という愛称で会員に慕われていた。百合花は会長の愛娘だった。
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