ロング・ディスタンス
 ジムの看板娘というと聞こえはいいけれど、百合花は父親そっくりの容貌でお世辞にもかわいいとは言えない娘だった。会員の中には彼女を「『百合の花』だなんて完全に名前負けだ」と陰口を言っている者もいたが、太一にとって彼女は「谷間の百合」そのもの。清純で愛らしく優しい娘だった。少なくとも付き合っている時はそう思っていた。
 太一が父親のジムに入門してきた時、百合花は長身で秀麗な顔立ちの新人に一目惚れした。おまけに彼は一流大学の学生ときている。年齢は彼女より一つ年上だ。百合花は練習の後に差し入れを渡すなど、かいがいしく太一の世話を焼いて次第に彼の心をつかむようになった。経営者の娘ということもあり、会員に近づきやすいポジションにもいた。太一が2年に進級する頃、二人は付き合うようになった。
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