ロング・ディスタンス
 それから二人は向い合せに座り、互いの近況を話していた。

 人目も時間も気にすることなく、男の人と二人きりで話をするなんて、以前の交際では考えられないことだ。これまでは普通の人が享受するごく当たり前のことができなかった。栞は10代の時に戻ったような新鮮な気持ちになる。

 振り返ってみれば、ホテルで会ってほんの数時間肉体関係を結ぶだけの付き合いなんていかがわしいだけだ。神坂とは対照的に、こうやって二人きりでいても、太一はすぐに体の接触を求めてくるような男ではない。それは彼が慎重だからなのか、初心だからなのか、それとも栞のことを大切にしているからなのかはわからないけれど、その方が真っ当な気がする。
< 206 / 283 >

この作品をシェア

pagetop