ロング・ディスタンス
 居間には辻堂家の二人の息子がいて、太一たちに挨拶をした。
 テーブルの上にはすでに刺身や天ぷら、ちらし寿司が並べられている。美加子が冷えたビールをグラスに注いでくれ、皆で乾杯した。

「長濱君の友達が来るっていうからどんな人かと思っていたら、やっぱり女の子だったかぁ」
 辻堂がビール片手にうれしそうに言う。
「島の女連中が残念がるだろうなぁ」
「そうね。長濱先生がここに来てから、島の若い子たちの様子が華やいでいたもの。若いイケメンの独身医者が来たって。でも、栞さんの存在を見たらがっくりくるでしょうねえ」
 美加子が同意する。
「長濱君のそばにこんなにきれいな人がいたら、島のイモ姉ちゃんじゃ太刀打ちできんだろうよ!」
 そう言って辻堂がガハハと笑う。
 栞は何も言わず照れ笑いをしている。
「栞さんは元同僚?」
「はい。同じ部局で働いていたわけではなくて、俺が外科部で、彼女が事務部で働いていたんです」
「へえ、同じ部じゃないのにどうやって知り合ったの?」
「同僚の看護師の紹介です。彼の彼女が事務部働いていて、それで」
「へえ。こんな素敵な彼女紹介してくれるなんて、同僚君グッジョブじゃん」
「知り合ってだいぶ長いの?」
 美加子がたずねる
「1年弱ぐらいですかね」
「へえ、じゃあ、今はもうラブラブかぁ」
 辻堂の言葉に太一は苦笑いを浮かべる。
「実は今みたいな付き合いになったのは最近のことなんですよ。紹介してもらったものの、しばらく疎遠だった時期があったんです」
 太一は、栞との間にあったゴタゴタは伏せてなれ初めを説明する。
「ほお。そりゃ、長濱君が遠くに行くとわかって初めて、お互いの気持ちに気付いたってやつだよねぇ。『やっぱり僕には、私には、あの人はなくてはならない存在だった!』みたいな。青春だねえ」
「もう、お父さん、そういう言い方はやめてよ。二人が引いちゃうよ」
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