ロング・ディスタンス
 美加子は幼い末の息子にご飯を食べさせている。彼女は「遠慮しないでどんどん食べてちょうだいね」と栞に声を掛けてくれる。
 一家がしゃべっている様子を見ていると、とても明るく幸せな家族であることがうかがえる。栞は辻堂家の人々に好感を持った。
 この数か月で、太一と辻堂の仲はだいぶ打ち解けたようで、酒を飲みながら話をはずませている。

 台所に戻ってフルーツを切っている美加子の所へ、栞が空いたグラスを持って入ってきた。
「あら、栞さん。気を遣わせてしまってごめんなさい」
「いいんです」
 美加子の腰には末っ子がまとわりついている。
「美加子さん。それ、手伝いましょうか」
「そうねえ。じゃあ、あなたが持ってきてくれたロールケーキを切ってもらおうかしら。この子がこうだから手を取られて」
 栞は美加子の横に並んで、海燕堂のロールケーキに包丁を入れる。
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