ロング・ディスタンス
「そうよぉ。この私だって若い頃は旦那に対してはお色気全開だったもの。夏場はキャミソールとホットパンツ姿で診療所に現れては、お弁当を差し入れしたものよ」
「はぁ、そうだったんですかぁ」
 意外な話をふられたものだ。
「ここの娘はね、よそから来る男に王子様を見出そうとしているのよ。まして長濱先生みたいなお医者さんだったら、なおさら魅力を感じるでしょ。彼女たちにはこの離れ小島から自分を連れ出してほしいっていう願望があるの。まあ、うちの場合は旦那がこの島を気に入って居座っちゃったけどね」
「そうなんですか。先生がここでそんなに人気があるなんて知りませんでした。こう言ったらなんですけど彼は元の職場では駆け出しの研修医でしたから、目立たない存在だったんです」
「あら、そうだったの? でも、彼結構なイケメン君じゃない?」
「……まあ、見る人によってはそうかもしれませんね」
 そういえば成美も長濱の容姿のことをほめていた。
「あなた、芸能人ではどういう人がタイプなの?」
 美加子に訊かれて、栞は性格俳優で知られる中年の俳優を挙げた。
「あら、結構マニアックな趣味なのね」
「そうでしょうか」
「そうよ。じゃあ、あなたは彼がお医者さんでかっこいいから付き合ってるというわけじゃないないのね?」
「私は、先生のお人柄が好きなんです。お医者さんなら他にも職場にいっぱいいますし。私が病気にかかって入院している時に、先生がお花を届けてくれたんです。その時にほだされました」
 栞はうつむきかげんになって頬を染める。
「まあ、そうだったの。だったらそれは本物だわね。長濱先生もあなたを大事にしないといけないわ。あなたは余所者だけど、私、あなたを応援したくなったわ」
「それはありがとうございます。」
 栞は美加子に笑みを向ける。
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