ロング・ディスタンス
 あちこち遠回りをしてアパートに着いた。

 角部屋のチャイムを鳴らしても太一は出てこない。8時半を回っているけど、彼はまだ寝ているのだろうか。昨夜の酒が抜けないのだろうか。
 栞が携帯をかけても彼は応答しない。

 仕方なく、彼女はアパートの周りをうろうろすることにした。建物の反対側に回ると、テラスで人の息遣いの声がする。太一の部屋の裏側である。
 栞は何気なしにテラスをのぞいた。
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