ロング・ディスタンス
 高3になってから、古文の授業は担当者が別の教師に変わったが、栞はのび太を恋しく思っていた。短大の推薦入試を受けるために、わざわざ職員室にいるのび太の所まで行って、小論文の添削をお願いしていたものだ。彼は真面目な教師だったので、現代文教師でもないのにこころよく教え子の依頼を引き受けていた。
 高校最後のバレンタインデー。栞は手作りのチョコレートをのび太にあげた。勇気がなかったので彼に告白まではしなかった。おそらく真面目なのび太は、そのプレゼントを受験指導のお礼だと思ったことだろう(栞は年末に短大の合格通知を受け取っていた)。おそらく女性にもてたことのない彼は、よもや自分が一回りも若い女子生徒に愛されているなど夢にも思わなかっただろう。
 そして卒業式の日。式が終わった後、栞はのび太を武道場の裏に呼び出した。もう生徒たちが下校した夕方のことである。制服の胸ポケットにカーネーションを挿した彼女は、恩師に三年間の熱い思いを打ち明けた。 
 のび太の答は簡潔だった。彼は教師という立場ゆえに教え子の気持ちを受け止められなかったが、そもそも彼には愛する女性がいた。真面目な彼は、カルチャーセンターで出会った同年輩の恋人がいることを栞に伝え、卒業後に彼女と交際することはできないと伝えた。
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