ロング・ディスタンス
 太一が非番の日の前夜は、夫婦でいつもよりのんびりと時間を過ごす。
 部屋にランタンを灯して、落ち着いた音楽を低音量で流している。
 入浴を済ませた二人は肌触りの良い綿のパジャマを着ている。
 彼らはソファの上で互いの身を寄せ合う。

「太一さん。私、あなたに伝えたいことがあるの」
 栞が夫に話し掛ける。
「何?」
「私を見つけ出してくれてありがとう。あなたが私の所に来なかったら、きっと私、今頃一人ぼっちだった。病気をして何もかも失くして、絶望していたと思う」
 太一は彼女の言葉に微笑む。
「こういう私をお嫁にもらってくれてありがとう」
「『こういう私』って」
「だってその、私ってぶっちゃけワケありの女でしょ。それを知っていて私のことをもらうなんてあなたって懐が広い人だわ。プロポーズされた時は内心『本当に私でいいの?』なんて思ったけど、余計なことは言わないでさっさとお嫁にきちゃった。これ幸いと話にのっちゃった」
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