ロング・ディスタンス
「何を言うかと思ったら。君は自分のことをそんなふうに思っていたのかい。意外だな。俺にとっての君はいつだって……」
 そこで太一は言いよどんだ。
「いつだって何?」
 栞が促すと彼は照れた表情で続ける。
「いつだって、その……天使みたいな人だよ」

 太一の言葉に栞の胸はキュンとなる。
 以前に、彼が昔の恋人のことを「天使のような存在」だと形容していた時には、顔も知らない彼女に嫉妬してしまった。若かりし日の彼にとって、彼女は「絶対に幸せにしたい存在」だった。彼が彼女に抱いていたような感情を、いつか自分にも感じてくれたらいいのにと思っていた。彼女を超える存在にまではなれなくてもいいからと。
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