ロング・ディスタンス
 彼とさらに接近したのは半年後のことだった。内科部門が研究学会を開くに当たり、受付やお茶出しの女性要員を事務部の中で募っていた。栞は神坂に会えるかもしれないという淡い期待を持って、その仕事に手を挙げた。学会は週末に行われたので、他の職員は誰もやりたがる者もいなかった。

 研究学会の大トリは神坂だった。彼は大勢の医療関係者の前で、自身の画期的な研究成果を発表していた。その堂々とした話しぶりとカリスマ性に、栞はますます彼に魅了された。学会の後の懇親会で、栞は思い切って彼に話し掛けた。彼女は半年前の行為のお礼を述べ、その日の彼のスピーチの素晴らしさをたたえた。彼は笑顔で彼女に話してくれた。
 懇親会の間。トイレに立った栞の後、神坂が追ってきた。彼は彼女を人気のないスペースに誘うと、酔った勢いで彼女にキスをした。彼もまた彼女のことを覚えていたのだ。事務部に新卒の可愛い子ちゃんが入ったと、栞の方も他の部署で評判だったのだ。それから二人の関係が始まり、それは今年で五年目に突入しようとしている。
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