ロング・ディスタンス
 すっかり着衣してしまった神坂が、振り返って栞を見る。彼女はブランケットに身を包んだまま、ベッドの上で膝を抱えている。

「あ、ああ。誕生日な。もちろん覚えていたさ。ただ、今日はヘビーな手術があって、そのことで頭がいっぱいだったんだ。ちょっと放心状態だったんだよ」
 そう言って神坂は身をかがめ、栞の頬に口づけをした。
「ごめん。誕生日おめでとう」
「ありがとう」
 栞はうつむいて言う。

「なあ、欲しいもんがあったら何でも言ってくれたらいいから。遠慮はするな。じゃあな」
 神坂は作り笑いを浮かべ、それからすぐに部屋を出ていった。
チェックアウトはいつも彼がしてくれる。彼女は身支度を整えてから、一人でホテルを出る。でも、今夜は何故か体が動かない。彼女は膝の上に顔を載せている。
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