ロング・ディスタンス
「所詮その程度の存在なんだよ」
 カフェバーで聞いた成美の言葉を思い出した。
 そうじゃない。そうじゃない。栞は自分自身に言い聞かせた。
 いや、やはり成美の言葉は言い得ているかもしれない。幾分、いや確かに自分は「そんな存在」かもしれない。けれど別に「そんな存在」だったとしてもいいではないか。好きなんだから。好きなんだからしょうがないのだ。どうしようもないのだ!

 いつものループに陥った。いつもはこんなに早く襲ってはこないのに。

 彼は何でも好きなものを買ってやると言っていたが、何もリクエストする気にはならない。そういう問題ではないのだ。栞が欲しいのは「気持ち」なのだ。でも、それを言葉にして伝えることすらできない。彼と間には気持ちの上で温度差がある。

 自分はこんな感情をいつまで抱えていくのだろうか。この先もずっと捕らわれ続けていくのだろうか。
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