ロング・ディスタンス
「こちらは長濱太一先生。外科部へ僕と同期に入局された研修医の先生です」
 長濱は「初めまして」と言って軽く頭を下げた。栞が目の前に座っていて落ち着かないのか、彼は視線を横に泳がせている。なんだか落ち着かない人だと栞は思った。
「児島さん、今日は僕らのために時間を空けてくれてありがとうございます。この長濱先生が児島さんのファンだっていうから……」
 細谷が言う。看護師らしいテキパキとした感じの人だ。
「もう、いいって言ったじゃないか。児島さんだって忙しいんだし。細谷がむりやりお膳立てしたんじゃないか」
 長濱は困った顔をしている。
「まあ、まあ、いいじゃないですか。先生にはいつもお世話になってるんだし、たまにはこういう食事会もいいでしょう」
「お世話にだなんてよく言うよ。細谷にはこっちの方がフォローしてもらっているよ」
 二人のやり取りを栞はきょとんとした表情で眺めていた。
「まあ、まあ。ほら、ビールが来ましたよ」
 一同は乾杯した。
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