鬼神姫(仮)
「ごめん。苛め過ぎた」
知羽が小さな声で謝ってきた。
「いや、俺こそ変なことばかり聞き過ぎた」
銀も謝り返すと、知羽は柔らかく笑った。赤い瞳が細くなる。この笑顔を知っている、と何故か思った。だが、知羽の笑顔を見るのは初めてだったはずだ。
「また、おにぎり持ってくるよ」
知羽はそう言うと立ち上がった。真っ白な着物が衣擦れの音を鳴らす。する、と耳に馴染む綺麗な音だ。
「さんきゅ」
銀が言うと、知羽は振り返って首を傾げた。そして、どういう意味、と尋ねてきたのだ。まさか、知羽は全く英語が解らないというのか。とはいえ、今銀が放ったのは英語と呼べるほどのものでもない。
「ああ、ありがとうってことだ」
銀はそれに面食らいながらも答えた。さんきゅ、と言うのと、ありがとう、と言うのでは何故か言葉の重味が違うように感じられた。