鬼神姫(仮)
「だから、礼はいい」
知羽は顔を綻ばせて言った。
「でも、俺の為に持ってきてくれたんだろ? だったら、やっぱり礼は言うべきだ」
銀が返すと、知羽は更に嬉しそうな顔をした。その表情にもまた、既視感を覚えた。
「じゃあな」
知羽は嬉しそうな顔のままそう言って、銀の部屋を出ていった。
廊下を歩く静かな音が耳に届く。知羽は一体、何なのだろう。何故、自分によくしてくれるのか。
銀は疑問を抱きながら、畳に転がった。
考えは明確さを増していく。どうせもう、戻るところなんてないのだ。それが奴等の思惑通りだとしても、そうなのだから。
明日の朝、決意を告げに行こう。