鬼神姫(仮)


姿勢を正して座る銀はまるで別人のように見えた。雪弥は上座から揃った番人達の姿を眺めた。銀、陽、巴、そして緋川。緋川はいつもの雪弥の少し前という定位置ではなく、人間達と方を並べて座っている。

「我等、四人の番人。鬼神姫様の命を必ずや護ってみせます」

緋川がよく通る声で決意表明をした。それに続き、残りの三人が深く頭を下げた。そこに交わる銀の姿には違和感しか覚えられない。あれほどまでに番人の務めなど果たさぬと豪語していたのに、銀は凛々しい、何かを決意した顔でそこに並んでいた。

「……白瀬はどうしているのです」

雪弥は此処に現れていない者の名を呼んだ。彼とて、此処に必要な鬼のはずだ。なのに、姿を現していない。

「何でも、本日は夢見のせいで気分が優れないようです」

それに答えたのは蒼間だった。いつも、白瀬と一対一で会うことはない。向こうが雪弥を訪ねてくることもなければ、雪弥が白瀬に会いに行くことは禁止されていた。その理由は知らないが、ただ、それは昔から禁とされているのだ。

──そんなことを言っていられる間柄でもないのに。

雪弥は白瀬のまだ見ぬ顔を考えてみた。彼はいつも白い布を被り、決して素顔を晒さない。雪弥はその理由も知らずにいた。

ただ彼は夢見と先見の力を持つ唯一の鬼。彼が命運を握っていると言っても過言ではない。なのに、白瀬はこの状況にさして興味を示している様子はなかった。





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