鬼神姫(仮)
──運命は廻り始めている。
雪弥は自室で目を閉じながらそう思った。どんなに足掻いても、どんなに抵抗しても、その運命は変わらないのか。
自分一人が死ねば終わるというのなら、それでも構わない。寧ろ、それで終わるならばそのほうがいい。だが、そうではないのだ。自分が殺されれば鬼の血族は尽きてしまう。ならば、死ぬわけにはいかない。とはいえ、人間を巻き込むことも憚られる。
「……難しく考えるな」
突然降りかかる声に雪弥はそっと目を開けた。するとそこには銀の姿があった。銀は与えられたものなのか、サイズの合わないシャツを着ている。恐らく、蒼間のものだろうか。
「どういうことですか?」
突然の訪問の経緯より先に、発言に対して尋ねる。すると銀はことわりもせず雪弥の前に胡座をかいた。着物の帯がきついと思い、振袖を脱いだ為、雪弥は今襦袢姿だったが、互いにそれを気にしてはいなかった。
「護るって決めたんだから、護んだよ。だから、俺らが決めたことをお前がうだうだ悩むな」
何を説得されているのかよく解らなかった。だが、銀なりの励ましにも聞こえた。雪弥はそっと視線を手元に落とした。
「護られる価値があるのか、とか考えてるんだろ? どうせ」
銀の言葉に雪弥は口を開いた。
「そのことについて考えたことはありませんでした」
「は?」
雪弥の返しに銀は呆けた声を出す。
「護られるべき存在だと教えられてきました。それが当たり前だと思い、番人達は喜んでその使命を果たすとも教えられてきました」
何度も自分に言い聞かせるようにそう言ってきたのは緋川だった。彼は雪弥が幼い頃からずっと、そう教えてきたのだ。だから、それを疑うことなどしなかった。ずっと、そうなのだと思ってきた。──銀と会うまでは。
銀に拒まれ、初めてそうではないと知った。