鬼神姫(仮)
「でも、今思うのは、人間が鬼などを護る必要があるのか、というのとです」
確かに過去の彼等には契りがあったかもしれない。だが、今の自分達にはそんなものはない。ただ、彼らの先祖が交わした契りを無理に果たされているだけだ。
「そんなことは判らない。でも、そうなってるんだから、そうなんだよ」
銀は何てことのないように言った。
「俺にだって、そんなことは判らない。だから、番人なんてやらないとも思った。でも陽先輩だって、巴だって、お前を護るって決めてる。俺だけ我儘言ってられない、てのもあるけど、そうじゃなくて、逃げるのは違うと思ったんだよ。逃げて、番人なんてやらない、て何も考えずに言うのは違うって。まあ、何も考えずに言ってたわけでもねぇけど、でも、与えられたものなら、向かってみようと思った」
銀が早口で自分の想いを告げてくる。そこには、彼なり考えた、彼なりの想いが詰まっているのだろうと、雪弥は真剣に聞いた。彼が彼なりに考え、出した結論が自分を護ること。それが雪弥には嬉しくも悲しくも感じられた。それは何故か。
まだ出会って数日。彼に何かしらの感情を抱いている可能性はほぼない。なのに、彼の言葉一つ一つに重みを感じた。
「……ありがとう」
雪弥は溢すように礼を告げた。それが今、正しい言葉かどうかは解らない。ただ、その言葉を告げたかった。すると銀は面喰らったような表情になり、そのあと、顔を背けた。
「あと、一つ提案があるのですが、宜しいですか?」
雪弥が言うと、銀は顔の向きを戻した。