鬼神姫(仮)
「……それなら、そうさせてもらうよ」
銀はそう言った後に小さく舌打ちをし、踵を返した。だが、彼が手を掛けたはずの襖が開くことはなかった。
銀はそれに不思議そうにしながらも、何度も襖を開けようとしたが、それは微塵も動かない。雪弥は一瞬不思議に思ったのち、直ぐにその正体に気付いた。
「緋川っ」
雪弥が怒鳴るようにその名を呼ぶと、その物は隣の部屋から直ぐに姿を現した。
「お前は……」
その姿を目にした銀が驚きの色を目に浮かべた。それもそのはず、その男は昼に屋上に姿を現した教師のものなのだ。違いは白衣姿ではなく艶やかな着物を纏っているということだけ。
「先程はどうも」
緋川はにこりと目を細めて銀に笑い掛けた。
「話を戻しますね。貴方がたに拒否をする権利などないのです」
緋川は冷えた視線を銀と陽へと向けた。
ーーこうだから、私の願いは叶えられないのだ。
雪弥は緋川と銀のやり取りを聞きながら内心溜め息を吐いた。