鬼神姫(仮)
北の番人と呼ばれる者は小柄な少女だった。
「氷沢巴(こおりざわ ともえ)と申します」
そう名乗った少女は指を畳につけ、深く頭を下げた。その額は今にも畳に擦れそうな程だ。
「顔を上げなさい」
雪弥が言うと巴は静かに顔を上げた。
大きくもなく、小さくもない瞳。真っ黒な髪。小さな顔。細い身体。
どれも取っても存分に闘えるようには思えなかった。
だが、その後ろには恐ろしく顔の整った男が綺麗な姿勢で座っている。
「この者は七海、というものです」
巴は雪弥の視線に気付いたのか、ちらりと後ろに目を向けてからそう言った。すると七海と呼ばれる男は丁寧な仕草で頭を下げる。
人間だというのに着流しをした妙な男。
「七海は私の世話役でございます」
巴が言うと、七海は再び頭を下げた。絹糸のような髪がさらりと揺れる。