鬼神姫(仮)
「私には何の能力もありません。ただ、北の番人の末裔というだけでございます。なので、私の代わりに、この鬼、七海が闘いに挑む所存にございます」
巴という少女は丁寧な口調がたどたどしく聞こえた。それもそうだろう。通常、生きていて使うような言葉ではない。
しかし、雪弥が気に留めたのはそんなことではない。
巴は後ろに控える男のことを『鬼』と称したのだ。
鬼が人間に仕えるなど、聞いたこともない。その反対なら例にないこともない。現に、過去葛姫に忠誠を誓った者達もいたのだから。
「鬼、とは如何なることですか?」
雪弥ではなく、緋川が尋ねる。
鬼は確かに各地にいる。だが、それもかの昔からすれば数は大分減ったし、純粋な鬼も数少ない。
それは、人間と契りを交わす鬼もいるからだ。
その為、純粋な鬼の所在は全て白瀬が把握している。彼が鬼の血の混じった人間であるなら、敢えて『鬼』と称することはないはず。そして、純粋な鬼なら、白瀬が事前にそれを教えるはずだ。
ということは、所在を把握されていなかった鬼ということか。