【完】春紫苑
将光が椅子を蹴った。
こんなのは見ていないクラスメートだって分かってることだろう。
将光は気に入らないものがある時は物を蹴るか投げる。
小学生かって思うけど、別にこれは日常的なもので、その音に驚いても、その行動に驚くほどのものではない。
きっと、クラスメートに恐れられ、嫌われているであろう将光。
でも将光は物を決して人に当てたりしない。
自らは殴ることも蹴ることもしない。
ただ卑怯なだけかもしれないけど、私はそれを将光の優しさなんだと思ってしまう。
……最低なはずの将光の良いところを見つけようとする私は絶対にバカなんだと思う。
でも、私は知ってるから。
私だけは、知ってるから。
彼がどうしてこうなってしまったか。
だから私はいつだって、昔の面影のその欠片を探そうとしてしまうのかもしれない。