無力な僕らの世界と終わり




ほとんど無意識に、自転車に股がった。



早く。
一刻も早くここから立ち去らなければ。



何度もペダルを踏み外しそうになった。
よろよろと蛇行しながら自転車をこいだ。


どこをどう、走ったのかよく覚えていない。


気が付いたら。
家の前に居た。



いやいやいや。

学校行かなきゃ、学校。
何やってんだ、あたし。

学校に行って。
のんに、山下先生に。


……何て言う?



分からなかった。

目の前で起こっていたことが、そもそも理解できていない。


瑠樹亜が。

瑠樹亜で。

瑠樹亜の……



「わああああ……」


頭を掻きむしりながら、あたしは冷静さを取り戻そうとする。


何だったんだろう。
何だったんだろう。

けれども考えれば考えるほど分からなくなる。



瑠樹亜がえっちなことをしていた。

あたしが想像することすらできないようなことを。


しかも相手は、あのベンツのヒトだった。


多分。

あれは……
お母さん?


何かの間違いだろうか。

間違いだろう。

きっと、何かの「ごっこ」に違いない。
恋人ごっことか、夫婦ごっことか。



ああ。
あたしの耳に、イタリアのオペラがこびりついている。

うるさいうるさい、うるさい!



「うるさい!」


思わず、声に出てしまった。







< 71 / 215 >

この作品をシェア

pagetop