廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜



『悟さん、ねぇ悟さん』


お陽は優しく悟の背中を撫でてやる。




『あんたは今まで、たくさんツラい目に遭ってきたじゃろう。

神様はね、きっと見ていて下さるよ。


じゃから、ここらで腹を括ろうじゃないか』







自分が遊廓に売られたのも、悟が戦地に向かわねばならないのも、与えられた運命なのだと


お陽は悟に訴えた。




『逃げずに、投げやりにならずに一生懸命勤めようじゃないか。

そうしたら、きっと、きっとね。素晴らしい幸せがうちらを待っとるんよ』


悟は、泣き顔でお陽の瞳をじっと見ていた。

そうして、おぼろげに笑う。


『全く、嫌な世の中に生まれてきたもんだ』







身体を売って暮らす女郎と、逃亡歴のある兵隊。



それでも二人は、これから幸せになりたいという望みを持っていた。



命あるかぎり


命あるかぎり



< 26 / 77 >

この作品をシェア

pagetop