廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
そう言っていた母。


その母は、大きな問屋の一人娘で何不自由なく育った。


だが、お陽の父親を養子に迎えてすぐ、両親が相次いで亡くなり、お陽を身籠った頃から

夫に女がいることに気づいていた。


それでも、家業のためと辛抱していたが、とうとう無理が祟って病になり呆気なく亡くなる。



お陽がまだ七つの頃だった。



父親は間もなく再婚。

継母の浪費で家業は傾き、借金まみれで倒産した。


父親は、同じ頃開戦した日中戦争に召集され戦地に送られた。





『よう子、いいかい?母さんの言うことをよく聞いて、少しでも良いところにお嫁にいけるように、がんばるんだよ』


お陽を胸に抱いて言った言葉。それが父親の最後の言葉だった。


父は真新しい軍服に身を包んで、万歳、万歳と皆に見送られて出征した。








継母と二人きりの生活は荒んでいた。


酒浸りの母は、つぶれた店の借金と酒代のため、お陽を遊廓に売ったのだ。



そのとき、お陽が持っていたのは、亡き母の位牌と形見のかんざしだけだった。


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