透叫


翌日、四黒は早く夜にならないかと、そわそわしていた。
事故で負った怪我はそれほど重症ではなかったが、検査で肝臓が悪いことが発覚し、しばらく入院しろと言われていた。

四黒には妻と娘が1人いるが、2つ年上の妻とはすでに倦怠期を迎えていた。
良妻のつもりでいるようだが、裏でこっそり不倫をしている事など、四黒はお見通しだった。
自分の女遊びが原因のうちだとは露ほども思わない。

娘の良子は高校生だが、どこで何をしているのか、最近家に帰ってこないことが多い。
妻の雪恵は別段気に留めることもなく、放任しているようだ。

「あなた。お花持ってきたわよ」

雲間から日差しが病室に差し込む午後、雪恵は花屋で買ってきた花束を抱えて病室に入ってきた。
雪恵の様子を見て、四黒はすぐさまピンとくる。
いかにもこれから不倫してきますって格好だな。
いつもより高価な服や装飾品に濃いめの化粧。
色気を出すための香水も、嗅いだことのない匂いだ。

鼻歌交じりで花を花瓶に活ける雪恵を見て、四黒は憎しみすらも込み上げず、ただ黙ってその様子を見ていた。
妻が不倫していることさえ、四黒にとっては娯楽の1つになっていたのだ。
必死に隠そうとして、良妻を演じる妻が実に滑稽で愉快だと、歪んだ感情が四黒の悦びになっていた。

「今日ね、久しぶりに会う友達と出かけてくるの。少し遅くなるかもしれないから、今日はもう来れないけど、大丈夫よね?」

妙にそわそわして言う雪恵に、四黒は心で嘲笑って表情は穏やかに頷いた。
頬を仄かに紅く染めている雪恵はどこかやはり色っぽく、ある意味飽きないためには不倫もいいものだ、などと考えてしまう。

「気をつけて行っておいで。ところで、良子はどうしてる?全然来てくれないな」

いかにも残念そうに言ってみるが、内心はどうでもよかった。

< 19 / 27 >

この作品をシェア

pagetop