透叫

おかしい。
今日はまだ飲みすぎってほど飲んでないのに。
こんなに早く強暴に出るなんて。
いやな事でもあったのかしら。
それとも具合が悪くて、お酒の回りが速かったとか?
雪恵は可能な限り理由を考えてみたが、確信できるものがなく、不安と恐怖を抱いたままワインを手に取り社長の元へと戻った。

「遅いぞ雪恵!なんだそれは!」

部屋に戻ってきた雪恵を見て、社長は再び憤慨した。
雪恵が持ってきたワインが気に入らなかったらしい。

「あの、ごめんなさい…」

雪恵はすっかり怯えきってしまい、社長の目をまともに見れずにいる。
社長はそんなことはお構いなしに雪恵に向かって歩いてくる。
ひっ!と短い悲鳴を上げる雪恵を見た社長の顔は悦びに歪んだ。

「雪恵…。何を怯える?こっちにきなさい」

もはや正気とは思えない目つきに、雪恵は社長が近づくたびに後じさった。
恐ろしさに体が震え、持っていたワインを滑り落としてしまい、足元からワインの香りとアルコールの匂いが広がっていく。

「ぁ…ごめ…さい…」

言葉にならない謝罪に社長は怒るでもなく、雪恵の怯える様子を楽しんでいる。
ゆっくりと焦らすように、しかし確実に雪恵を追い詰めていく。

この日の社長の部屋には雪恵の悲鳴が響き渡っていた。
しかし、壁も窓も防音の部屋からその悲鳴が漏れることはなく、外では穏やかな夜が過ぎていった。

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