水ノ宮の陰陽師と巫女
操り針子は、楓と雅人の散ったのを見るなり、

「ちょこざいな……」

雅人の方を追いかけ始めた。

銀色の長い髪がさらに長くのび、いくつもの触手のように何本にも分かれその先端は尖っている。


「キンジコウリン ジャゼン タイフク」

符を切印に挟んで唱えた雅人の前に、大きな壁ができ、操り針子の伸びて襲ってくる髪がドスンと何度もぶつかり止まった。

髪と共に宙に浮かんで飛んで襲い掛かる操り針子もその壁にドッカリとぶつかり、地面にたたきつけられた。

その様を見た楓は、両の手に持っているくないを五本を、操り針子を囲むように放った。

すぐさま切印を作り、くないを数珠のように繋ぐように空で五芒星を描き、切印を上へ切り裂くようにあげると

「結界!」

叫ぶとともに、操り針子はいとも簡単に、封印結界に封じた。

楓と雅人は操り針子の方へ歩み寄り、

「主はどこだ!」

と、聞くが答えようともせず

「主様あぁ、主様あぁ。お助けをぉぉ」

と仕切りに主を呼ぶ。だが主と呼ばれる者は一向に姿を見せない。

「我を見捨てたというのか……主様……。やはり人間などに仕えるだなんてするのではなかった。我の願いをかなえてやると言ったのはうそだったのか……」

膝を落とし、心非ずというような声で、ポツリポツリと言っていた。

「このままにしていたら、またあの時のようになっても困るから滅しないと!」

「わかってる。だけど主はどこだ!」

雅人は主のことばかり気にし、辺りを探すように目配せをしていた。

だが、楓はさらに上の空に五芒星を描き

「奉りし 天の扉 開きて 魔を滅せよ 天異界 解放」

操り針子の頭上に出来上がっている五芒星は扉となり開き始めた。

さらに楓は切印を上から下に振りおろし

「滅!」

「ぎゃああああ……あああ……」

迸った悲鳴が断末魔のように響き渡り、体の中から爆発するように操り針子は粉々になった。

異界への扉が開いたのだ。滅した妖をすべて飲み込む異界。そこにあるのはただ闇だけ。一点の光もない。無の世界へと再生できないように異界へと飛ばした




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