そのキスの代償は…(Berry’s版)【完】
その情事

本能

コンコンコンコン。
私は指定された部屋のドアをノックする。

しばらくしてガチャっという音がして、
内側からコンコンコンコンコンと5回ノック音がする。


それがあの人とのサインだった。


周りに誰もいないことを確認し、一呼吸置いてドアノブを引く。


2人が一緒にいるところを見られないように、
あの人が戸口で迎えることはない。


部屋に立ち入り視線を上げると、向こうにあの人が立っていた。


その目に射すくめられながら
私はゆっくりと後ろ手でドアを閉めた。


とたんあの人は意地の悪い微笑みを浮かべながら
大股でこちらに寄ってくる。


無言のまま乱暴に私の両手首を掴み、
ドアに私を押し付け唇を塞ぐ。


鼻腔をくすぐるフレグランスの香り。
それを鼻から吸い込むと、一気に欲望に火がつく。
一瞬目を開けると、唇をほんの少しだけ離して
あの人の右眉があがった。

やっと唇が離れ、酸素を欲した体が息を吸い込もうとしたとき


「限界だ」


ため息のようにも聞こえるその余裕のない呻きが唇から漏れる。


「お前を見て、触れられないのは…拷問だ」


そう吐き捨てた。

あの人は最初から体の関係だけだと言うのに…
そのキスは甘い。
でもどんなに甘いくちづけをかわしても、
私の本当に欲しいものは手に入らない。


あの人の心は、どこまでいっても私の物にはならない。
あの人に、もう心はないから。
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