そのキスの代償は…(Berry’s版)【完】
まだ、仄かに残っているあの人のフレグランスの香りに…

鼻を擦り付ける。


その香りを鼻腔に吸い込むと、もうその躰はないはずなのに

私の躰が反応する。


あんなに昨日イッたのに、

それでもまだ欲しいと思う私は貪欲な女だ。


もう一息吸い込むと、条件反射のように

欲情する躰に切なさがつのる。



あの人がいるときには決して許されない事。


貪欲に何度も身体を重ねるたびに私はある言葉を、

心の中で繰り返し何度も叫んでいた。


でも、その言葉に音がのることは決してない。


そして…おそらくあの人はそれを受け取ることは決してない。


それは望んでいないことだから。

あの人の望まないことはしたくない。

あの人にとって私は…転勤先のただの情事だから。


でも、置き去りにされた今、このくらいは許してほしい。

この部屋を出れば私はあの娘たちの母親。


おんなの自分を捨て、しゃにむに働かなければならない。

それが嫌なわけじゃない。

私は望んで一人になり、娘たちと暮らしている。


ただ、一人は寂しい。



もう少し…

もう少しだけ…

このままでいさせて。

私はしばらくの間、あの人の残り香に抱かれていた。
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