黄昏に暮れる君へ

ローゼ=レオン


 ――ドラノワ公国には、王たちがプライベートな時間を過ごすためのいくつかの豪奢な宮殿がある。
 例えば、薔薇の香り芳しい、華やかで美しい宮殿、ローゼ=レオン。
 現在の国王である、ミシェル・ロデオ・ド・ドラノワ公爵が、まだ王位継承者だった頃に建設された宮殿である。
 そして国王たる主が公務のための宮殿に去った今、そこに住まうのは、現国王の直系の孫息子…、サミュエル・クロード・ド・ドラノワだった。

「…相変わらず、ここは薔薇で埋め尽くされているな…」

そう、ローゼ=レオンの名の通り、この宮殿にはことあるごとに薔薇のモチーフが用いられていた。
薔薇を象ったシャンデリア、薔薇を彫った燭台、etc…。
そして何より、薔薇園に咲き誇る、色とりどりの薔薇たち…!

「…薔薇、か…。
 お祖父様は、一体何故こうも薔薇を好まれるのか…」

それを疑問に思い始めるとキリがないことを、サミュエル・クロードは知っていた。
だが、彼もじきに王位を継ぐ身。
それ故に、自由には出歩けず、暇を持て余しているのだ。
出歩いたところで、思考の模索に耽るか、得意の絵を描くか、その程度なのだ。
しかも、宮殿の中に居るときでさえ、暇潰しをして過ごさざるを得ないというのだから、退屈で仕方がないのだ。
だからこそあえて、自ら思考の迷宮に惑うのだ。

「ローゼ…、薔薇…。
 それはわかる。
 では、レオンの方は…?」

それは、国王が生涯で唯一愛した女だという、愛人・妾の名らしかった。
あくまでも、それは周りの貴族たちの下世話な憶測に過ぎない。
…が、あながち間違ってもいないものだ。

「レオン…、やはり、レオンティーヌ様の…?」


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