黄昏に暮れる君へ

 僕が、まだ幼かった頃。
両親、そして祖父と共に、このローゼ=レオンで暮らしていた。
だが、それなりの広さを持つ宮殿には、最小限の召し使いたちのみが居た。
そして、「入ってはいけない」と言われた祖父の秘密の部屋に、僕は幼心をくすぐられ、入り込んだのだ。
最初は余りにも人が居ないので、途中で引き返そうか、とも思った。
が、折角ここまで来たんだからと、震える足を奥へと向けた。
そして、その人は、そこに居た。
この宮殿のどこよりも豪華な、真紅の薔薇に満ち溢れたその一室は、たった一人の人の為に…!

「――…ロデオ…?」

涼やかで凛とした声が、その部屋に柔らかく響いた。
薔薇の花びらのように赤く丸いくちびるは、祖父の名を呼んだ。
それも、どれだけ親しい者にも呼ばせていないはずの名で…。

「…あ、あの、あなたは…」

美しい人だった。
流れる金の髪、潤んだ緋の瞳、雪の肌。
止せばいいのに、声を掛けてしまった。

「…まあ…!
 あなたは…、ロデオのお孫さんでしょう?
 知っているわ、ええ!
 名前は…、クロード?」

驚いた。
 なぜ自分の名を…、それも、余り知られていない方の名を知っているのか。

「…どうして僕のことを…、」
「あら、いくらこの部屋の周りしか動けなくても、あなたのことはこの宮殿に居れば誰でも知っているわ!
 それに、あなたはロデオの幼い頃にそっくりだし…、ね?」

まるで、祖父の幼い頃を見ていたかのように笑うその人は、まだ年若い少女にしか見受けられなかった。
その上、何よりも華やかな少女らしい振る舞い。
僕は、不思議な雰囲気を纏ったその人に、一瞬で魅了された…――。

「…また、遊びに来てもいいですか?」
「――…夜が明けたら、いつでも」

真紅の薔薇のように気高く華やかなその人は、名をレオンティーヌと言った。
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