素敵な上司とキュートな部下
「そんなの、ダメに決まってるでしょ?」

『どうして?』

「どうしてって、それはイケナイ事だと思うから……」

『そんな学生みたいな事は言わないの。相手が香川さんだったら問題ないんじゃない? 恰好いいし、エリートだし、真面目だし……』

「そりゃあ、確かに香川さんは素敵だと思うけど、愛がないと私は嫌だなあ」

『好きになればいいでしょ?』

「そんな簡単に言わないでよ……」

『まあ、人を好きになる気持ちって、自分の思い通りには行かないものだけどね。でもそういう目で彼を見れば、その内そうなるかもしれないじゃない?』

「それはまあ、そうかもしれないけど……」


加奈子はあえて否定はしなかった。加奈子が香川を好きになる可能性を。

志穂に言われるまでもなく、加奈子も香川は理想的な男性だと思っている。今はまだ香川を上司としか思えないが、その内好きになる可能性は十分にあると思った。


『あんな素敵な人から誘惑されたなんて、加奈子はすっごい恵まれてると思うわよ?』

「ゆ、誘惑だなんて、そんな……」

『ううん、誘惑よ。話を聞いた限りではね』

「そんな事言われたら、香川さんの顔をまともに見られないじゃない……」

『そう? ごめんね? あ、そろそろ祐樹が起き出す頃だわ……』

「あ、ごめん。今日は話を聞いてくれてありがとう」

『どういたしまして。じゃあ、明日ね?』


と志穂が言い、そこで通話は切れた。


(明日? 明日って、何かあったっけ?)

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