素敵な上司とキュートな部下
「も、戻りましょう?」


加奈子は、赤くなったであろう自分の顔を大輔に見られたくなくて、大輔に背を向けるようにして立ち上がった。


「君は月報のチェックをしなくちゃでしょ?」


言ってから、月報の一件を思い出し、嫌な気分になり掛けた加奈子だったが、


「あれはもう決着つきました」


大輔も立ち上がってそう言った。


「そうなの?」


振り向いた加奈子は、思ったよりも高い位置にある大輔の顔を見上げる恰好になった。実際のところ、大輔は香川よりも数センチだが背が高く、加奈子にとって、それは新鮮な発見だった。


「あの後香川部長が戻って来て、事情を知るなり西村さんを一喝したんです。『あなたのやり方は間違っている』って。主任は昨夜遅くまで残ってやったんですってね?」

「うん、まあね。嶋田君と違って要領が分からないから、無駄に時間が掛かっちゃって……」

「それは無理もないですよ。で、香川部長は言ったんです。『もし仮にチェック漏れがあったら、俺が責任を取る』って。恰好よかったなあ。そう思いません?」

「そ、そうね」


と言ったものの、その場にいなかった加奈子には、正直なところ今ひとつピンと来なかった。



『やっぱりあの人には適わないのかなあ』


歩き始めながら呟いた大輔の言葉を、加奈子は殆ど聞き取れなかった。


(嶋田君は今、何て言ったんだろう。“適わない”って聞こえたみたいだけど……)



「あ、いっけねえ!」


不意に大輔は、素っ頓狂な声を出すと立ち止まった。

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