素敵な上司とキュートな部下
「あっちの山が低く見えるんだから、ここは五合目でも相当高いのね?」

「たしか標高2千メートルぐらいだと思います」

「そんなに高いんだ……。どうりで涼しいわけね?」


加奈子も大輔も、寒さに堪らず剥き出しの腕を手で擦った。


「寒いから、あそこのお土産屋さんに入りましょうか?」

「そうね。熱いお茶が飲みたいわ」

「いいですね……。それと、メロンパンがまだあるといいなあ」

「メロンパン?」

「はい。富士山の形をしたメロンパンがあるんです。結構有名ですよ?」

「そうなんだあ。じゃあ、早く行きましょう?」


幸いに『富士山めろんぱん』はまだあり、大輔はひとつ買って早速それを口に頬張った。加奈子はお昼を食べた後で、とてもひとつは食べ切れないので買わなかった。


「美味しい?」

「はい、結構いけますよ。少し食べてみます?」

「う、うん」

「じゃあ、はい」


大輔はメロンパンを一片指でちぎり、加奈子の口元に差し出した。


「………?」

「お口を開けてください」

「え?」

「早く……」

「う、うん……」


恥ずかしいのを我慢して加奈子が口を開けると、その中に大輔はメロンパンを差し入れた。


「どうですか?」

「うん、美味しい……」


口をモグモグしながらそう答えた加奈子だが、実際のところ、味はよく分からなかった。大輔に食べさせてもらった恥ずかしさの方が、勝っていたからだ。

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