『一生のお願い、聞いてよ。』

「彼氏が…」

先生『勇治くん?』

「うん…」

先生『いつも原中さんが、いや、りょうが楽しそうに話してる彼だよね、何かあったの?』

「さっき、親友の真央と一緒に二人でいたの…」

先生『勇治くんが?どうして?』

「分かんない、勇治を追いかけてたら、二人で狭い道から出てきて…」

先生『………』

「りょうのことを思うならあたしにしとけば?とか、今でも勇治のことずっと好きだよとか、真央が言ってた…」

先生『うーん、モテる男は辛いねー』

「りょうのどこが好きなの?って真央が聞いたら、勇治は分かんないって答えてた…」

先生『………』

「会話はそこまでしか聞こえなかったけど、あたし、振られるのかな…」



目頭が熱くなっていく。



その時、先生の大きな手があたしの頭を撫でた。



先生『まだお前らは若いんだ。たくさん恋してたくさん傷付いて、それでやっとほんとの幸せが手に入るんだ。傷付かずに掴んだ幸せはちょっとした、些細なことで崩れ去るよ。俺もそのくらいの年齢の時はいっぱい傷付いたし、いっぱい傷付けた。でも、それを経て、今の俺がいるんだ。今は辛くても、笑ってそのことを話せる日がくるから』




先生の大きな手と、大人な言葉に、大きな水槽を泳いでいたあたしの心を金魚すくいの様に、ひょいと救われた気がした。




「……発言がおっさん(笑)」

先生『おっさんで悪かったな(笑)今年でついに40だぞー(笑)』

「えー!先…健二ってもう40なの?!みえなーい!」

先生『だろ?体も鍛えてるしな!(笑)』


腕の筋肉を見せながら笑う先生が、輝いて見えた。


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