紫陽花ロマンス


もう、思い出すのはやめよう。


思い出すだけ虚しくなるだけ、
自分が惨めになるだけ。


今さら、元旦那と浮気相手に腹を立ててもどうしようもない。


ここで私が何を言っても彼らには聞こえないし、痛くも痒くもないだろう。既に私に対して何とも思ってないだろうから、負け犬の遠吠えでしかない。


悔しいけど。


大きく息を吸い込んで、吐いてみる。
気持ちを落ち着かせようとして。


「ねえ、美空は悔しくないの?」


里穂が、ぐいっと水を口に含む。


私に代わって怒ってくれていると思うと、本当にありがたい。いろいろ知りたくないことまで教えてくれるけど、必ず私の味方で居てくれるいい友達だ。


「もちろん悔しいけど、今さら何を言ってもどうしようもないし、腹立てるだけ損だと最近わかってきたの。ひとりで怒るだけ馬鹿馬鹿しいなあって」


怒りの収まらない里穂を宥めるように、静かに答えた。まずは自分の心を落ち着かせてから。


私の話を聞き終えた里穂は、きょとんとして固まってしまった。



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