はじまりは政略結婚
そんな私を一瞥した里奈さんは、視線を一度左右に動かすと、いきなり腕を掴んできたのだった。

「人に聞かれても困るから、こっちで話しましょう」

強引に引っ張り込んだのは、近くにあった部屋で、プレートを『使用中』にひっくり返すと、私を中へほとんど押し込んだ。

「ここ、たまに服を置いておくのに使う場所なの」

だからか、部屋といっても物置に近く、ダンボール箱やらマネキン人形やら、パイプ椅子やらが乱雑に置かれていた。

六畳ほどの窓もない殺風景な場所で、里奈さんも中に入るとすぐに鍵をしめる。

まるで閉じ込められたみたいで、思わずその行動から目を離せないでいた。

「そんなにビクビクしないでよ。何かしてやろうとは思ってないから。ただ、何か言ってやろうとは思ってるけど」

「えっ⁉︎」

片手を腰に当てた里奈さんの迫力は、思わず後ずさりするほど。

睨みつけられた挙句、左手を掴まれて持ち上げられると、情けなくも声が裏返ってしまった。

「ひゃあ!」

「あのさ、変な声を出さないでくれる? 本当、こんな野暮ったい子のどこが好きなんだろ」
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