はじまりは政略結婚
それ以来、ずっとヘアスタイルを変えないでいた。

性格もどこか卑屈ぽくなって、そんな自分を嫌に思うこともあった。

変わりたいけど、変わるのが怖い。

それが自分の本音だと気付いたのは、智紀が教えてくれたからなのに……。

ポタリと、涙がこぼれ落ちる。

視界が滲みながらも、智紀の動揺した表情は見ることができた。

「ひどいよ、智紀。私は、あなたに可愛いって褒めてもらいたかった。あなたのお陰で、少しは前向きな自分になろうと思えたのに……。無駄だったってことよね?」

明らかに狼狽している智紀は、言葉を失っている様だ。

「結局私は、何もしない方がいいんだって、よく分かった」

嫌みを言ったって仕方ないと分かっているのに、気持ちを止めることが出来ない。

「由香……」

困惑した顔の智紀が、そっと手を伸ばしてきたけれど、反射的にそれを払っていた。

「智紀も海里も信じた私がバカだった」

決して言ってはいけないセリフを彼に突きつけて、衝動的にマンションを飛び出していたのだった。
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