はじまりは政略結婚
「返事に困るってことは、持ってるんだな。何で?」

スタジオから、ずっと不機嫌さを露骨に出されて、完全に怖気づいてしまった。

「それは、捨てるタイミングを失ってたから……」

恐々と答えると、智紀はますます苛立ちを募らせたかのように、眉間のしわを深くする。

その姿に、本当に泣きそうだ……。

「へぇ。タイミングねぇ。本当は、大事な思い出なんじゃないのか? それに、お前ヘアスタイル変えただろ。それも、海里が帰国してきたからじゃないのか?」

「え……?」

思いがけない言葉に、心が一瞬固まった。

さすがにイメチェンには気付いていたみたいだけど、海里の為にしたと思われるなんて心外だ。

「もしかしたら再会するかもとか、そんな風に考えてたんじゃないのか?」

本気で言っているなら、こんな残酷なことはない。

私にとっては、ヘアスタイルを変えるだけでも勇気がいることだったのに……。

海里と付き合っていた頃、一度だけ髪を切ったことがある。

彼に褒められたくて、少しでも華やかな雰囲気に近づけようとしたけれど、『由香には似合わない』、その言葉で片付けられたのだった。
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