はじまりは政略結婚
言葉を返せない私に、海里は一方的に時間と待ち合わせ場所を告げて電話を切った。

それから後は、ほとんど放心状態で、お弁当の残りは食べられないくらいだった。

幸い、仕事は落ち着いていて、ルーティーンワークの請求書チェックのみで午後を終えられ、急いで帰り支度をする。

その姿に、竹内さんは智紀と待ち合わせをしていると思ったらしく、彼女の冷やかしに苦笑いで誤魔化すとオフィスを後にした。

20時になり、外はすっかり暗くなっている。

それでもオフィス街は人が多く、ばったり智紀や兄に会わないかヒヤヒヤだ。

海里が指定した場所は駅裏のカフェで、隠れ家的なこじんまりとした店。

何度か訪れたことのある店だから、迷わずに約束の20時半までには間に合った。

足早になったせいか、少し息を乱しながら重い木の扉を開けると、オレンジ色の明かりで照らされた薄暗い店内が見える。

5組ほどカップルらしき男女がいる中で、端のテーブルに座っているニット帽とサングラス、そしてマスク姿の男性が、小さく手招きをしたのだった。
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