はじまりは政略結婚
心配させているのは分かっている。

それを申し訳なく思うけれど、兄の言葉ですら、耳を傾ける余裕はなくなっていた。

「本当に食べる気がないの。大切なものを失って、もう何も気力がわかないから」

膝を抱えて顔を伏せる私に、兄は優しく頭を撫でた。

「やっぱり、何か事情があって、智紀のプロボーズを断ったんだな? なあ、オレに話してみないか?」

どうやら、兄は薄々気づいていたみたいで、顔を上げると優しく微笑んでくれた。

だけど、あの写真が原因と知ったら、兄も苦しむに違いない。

それに、もう一枚の写真に関しては、軽々しく海里に会いに行った自分にも責任がある。

ここで兄に泣きついたら、かえって迷惑を大きくするだけだ。

そう思ったら、やっぱり話せそうになかった。

「話さない。それより、いつまでこんな状態が続くの? いい加減に、嶋谷社長にもお詫びをしなきゃ……」

婚約破棄の話は、きっと耳に入っているはずなのに、嶋谷社長からも奥様からも何も言ってこない。

すると兄は、困ったように腕を組んで、しばらく考えていた。

「気になるのは当たり前だよな。オレも智紀と話をしてる最中だから、もう少し待っていて欲しいんだ」
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