はじまりは政略結婚
「うん……。分かった」

そう言われたら、それ以上何も言えない。

それにしても兄が、智紀と会っていることが分かって、またしても切なさがこみ上げる。

私も会いたい、声が聞きたい。

智紀が側にいないことを、こんなに辛く思うなんて……。


自然と涙が溢れた私を、兄は優しく抱きしめてくれた。

まるで子どもの頃のように、涙が止まるまでずっと……。

「由香、落ち着いたら何か食べに行こう。家で塞ぎこんでいたって、何も変わらないよ」

ようやく涙が止まった私に、兄は穏やかにそう言った。

こんなに心配ばかりかけて、これ以上ワガママを押し通すわけにもいかない。

弱々しく頷いた私に、兄は嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「久しぶりだな。由香とゆっくりデートできるのは」

元気づけようとして言ってくれているのが分かって、なんとか小さく微笑んだのだった。
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